アリバイがあります

 こんにちは。オレです。

 親父の発言が日に日にファンタジー色を帯びてきています。今年に入ってから拍車がかかり、まるでフィクションの語り部のごとく、次から次へと空想物語を展開してくれてます。

 彼の話の中に登場するのは、ほとんどが疎遠になった親戚や昔の仕事の同僚。今は付き合いがない人たちばかりですが、毎日彼らと行動を伴にしている(らしいです)。

 年寄りが昔を懐古して話す、お花畑に蝶蝶が飛んでいるようなほのぼのした内容ばかりですが、時々ドキっとする事を言い出します。

 今日はオレの顔を見ながら「昨日、家の写真を撮りに来た女がおっただろ」いう親父。

 いやオレは知らない。何時頃だ?と聞き返すと「夕方の5時頃来ただろうが!」との事。

 認知症患者に対する否定は混乱を招くと専門書で読んで以来、オレはハイハイと話を合わせるように心がけています。

 すると話は進み、その女性はどうやら殺されたらしいのです。それで警察が親父に事情聴取に来たと。しかも150人くらい集団で。本格的な殺人事件の捜査ですな。

 「お前のとこにも警察が来るかもしれん」と言う親父。

 お父さん、安心してください。昨日の夕方5時頃は我々は歯医者にいて、あなたは親知らずを抜歯されてましたよ。

 その痛みを思い出し「ああ、そうだったな」と納得した親父。オレら親子はなんとか容疑者から外れて、ホッと胸をなで下ろした一コマでした。

 しかし、今回はファンタジーにしてはちょっとキツいですよ、お父さん。

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